月夜に釜を抜かれる(つきよにかまをぬかれる)

 古い農村に住むタロウは、夜になると自分の農具や道具を念入りに片付けることで有名だった。彼は特に大事にしていた鉄製の釜を、倉庫の奥深くにしまい込み、絶対に盗まれないようにしていた。


ある晩、満月が明るく輝く夜、村中が静まり返ったころ、タロウは釜のある倉庫の前に立っていた。満月の光があまりにも明るく、まるで昼間のように辺りを照らしていた。タロウは自分の倉庫が安全だと信じて疑わなかった。


その夜、彼は満月の美しさに誘われ、少しの間だけ庭に出て月を眺めていた。月光の下でぼんやりと時間を過ごしていると、心地よい風が吹き、タロウはうとうとと居眠りをしてしまった。


翌朝、タロウが目を覚ますと、倉庫の扉が半開きになっているのに気づいた。不安な気持ちで中に入ると、大切な釜が無くなっているのを発見した。「なんてことだ、釜を盗まれてしまった!」と驚愕した。


タロウは急いで村の長老のもとに駆け込んだ。「長老、満月の夜に釜を盗まれてしまいました。誰がこんなことを!」


長老は静かにうなずき、「タロウ、お前は『月夜に釜を抜かれる』ということわざを知らないのか?満月の夜は明るくて安全だと思いがちだが、その油断が盗人を呼び寄せるのだ」と語った。


タロウはその言葉に深く反省した。「確かに、満月の明るさに安心してしまい、警戒心を失っていた。もっと注意すべきだった。」


村の人々もこの事件を聞き、タロウを励ましながらも、自分たちも同じ過ちを犯さないようにと教訓を得た。


それからというもの、タロウは夜の警戒を一層強化し、村の人々にも防犯意識を高めるよう呼びかけた。村全体が協力して夜の見回りを行うようになり、犯罪は次第に減少していった。


時が経つと、タロウの釜は見つからなかったが、彼の経験は村の安全意識を向上させるきっかけとなった。村人たちは「月夜に釜を抜かれる」ということわざを思い出し、満月の夜でも油断しないように心がけるようになった。


タロウも、自分の過ちを教訓に、村の安全を守るために尽力し続けた。彼の努力と教訓は、村の未来をより良くするための大切な一歩となった。



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#田記正規 #読み方

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