血で血を洗う(ちでちをあらう)

 ある小さな村に、長年続く二つの家族の対立があった。村の東側に住むアサノ家と西側に住むタカシマ家は、昔から犬猿の仲であった。対立の原因はもう誰も覚えていなかったが、憎しみと怒りは代々受け継がれてきた。


アサノ家の息子タケルは、幼い頃から父親に「タカシマ家とは関わるな。彼らは信用ならない」と教えられて育った。一方、タカシマ家の娘マリも、同じように「アサノ家とは絶対に友達になってはいけない」と言われていた。


ある日の夕暮れ、村の広場で二つの家族が鉢合わせた。アサノ家のタケルとタカシマ家のマリが、互いに睨み合った。村人たちは緊張した空気を感じ取り、息を呑んで見守っていた。


突然、タケルの父が声を荒げた。「お前たちタカシマ家のせいで、我々は長年苦しんできた。今こそ決着をつける時だ!」 彼の言葉に呼応するように、タカシマ家の父も応じた。「それはお前たちアサノ家の方だ!今ここで終わりにしよう!」


両家の家族は武器を手に取り、互いに向かって突進した。村人たちは恐怖におののき、止めることができなかった。広場はすぐに混乱の渦に包まれ、血で血を洗う争いが始まった。


しかし、その中で一人、タケルとマリは戦いの中心に立っていた。彼らは一瞬目を合わせ、何かを感じ取った。タケルは剣を握りしめながら、心の中で問いかけた。「本当にこの争いに意味があるのか?」


マリも同じように、胸の奥で葛藤していた。「私たちが戦い続けることで、何が得られるのか?」


その瞬間、タケルは剣を投げ捨て、大声で叫んだ。「もうやめよう!この無意味な争いを終わらせよう!」


マリも同様に、手にしていた武器を放り投げた。「そうだ!私たちがこの憎しみの連鎖を断ち切るんだ!」


その声に、両家の家族は動きを止めた。互いに傷つけ合う姿を見つめ、冷静になり始めた。タケルとマリは互いに手を取り合い、涙ながらに訴えた。「私たちが争いを続けることで、村全体が苦しんでいる。今こそ和解し、共に平和を築こう。」


その言葉に、家族たちは深く心を打たれた。アサノ家とタカシマ家は、長年の憎しみを超えて、互いに手を取り合った。村人たちは拍手と歓声でその和解を祝福した。


それ以来、アサノ家とタカシマ家は協力し合い、村全体が繁栄するようになった。タケルとマリの勇気ある行動は、村の人々にとって大きな教訓となった。彼らは、「血で血を洗う」争いがいかに無意味であるかを深く理解し、平和と共存の大切さを学んだのだった。


ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

コメント

このブログの人気の投稿

前車の轍(ぜんしゃのてつ)

山椒は小粒でもぴりりと辛い(さんしょうはこつぶでもぴりりとからい)