玉に瑕(たまにきず)
小さな町に、リョウという名の青年が住んでいた。リョウはその町で一番の彫刻師で、その作品は町中の人々に愛されていた。彼の作品は細部まで精巧で、美しく、見る者の心を打った。
ある日、町の有力者であるサトウ氏がリョウの家を訪れた。彼はリョウに大きな依頼を持ちかけた。「リョウ君、私の家の庭に大きな石像を作ってほしい。それは我が家の誇りとなるような、素晴らしい作品にしてほしいのだ。」
リョウはその依頼を受け入れ、最高の作品を作るために全力を尽くすことを誓った。彼は何週間もかけて、大きな石の塊を彫り進め、ついに美しい石像を完成させた。その石像はまるで生きているかのような迫力と美しさを持ち、サトウ氏も大いに満足した。
しかし、完成した石像をじっくりと見ていたサトウ氏は、ふと石像の一部に小さな傷を見つけた。それは非常に小さな傷で、ほとんど気づかない程度のものだったが、完璧を求めるサトウ氏にとっては大きな問題だった。
「リョウ君、この石像は素晴らしい。しかし、ここに小さな傷がある。このままでは完璧とは言えない。どうしてこんな傷がついたのだ?」サトウ氏は少し不満げに言った。
リョウはその傷を見つめ、深く息をついた。「サトウさん、確かにこの傷は私のミスです。でも、この傷もまた、この作品の一部なのです。完璧を求めるあまりに、人は時として小さな欠点を見逃すことができません。しかし、その欠点があるからこそ、作品は人間味を持ち、魂を宿すのです。」
サトウ氏はその言葉を聞いてしばらく考え込んだ。そして、ふと微笑みを浮かべた。「リョウ君、君の言うことは正しい。この小さな傷もまた、作品の一部だ。完璧を求めるあまりに、人は時に大切なものを見失うことがあるのかもしれない。」
その後、サトウ氏は石像を庭の中央に据え、その美しさと共に小さな傷も受け入れることにした。町の人々もその石像を見に訪れ、リョウの技術と共に、作品の一部である小さな傷をも讃えた。
リョウの石像は、町の誇りとなり、彼の名声はさらに広がった。そして、人々は彼の作品を見るたびに、「玉に瑕」という言葉の意味を思い出し、完璧を求める中でも欠点を受け入れることの大切さを学んだ。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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