他人の疝気を頭痛に病む(たにんのせんきをずつうにやむ)

 田中一郎は会社での評価も高く、家族とも良好な関係を築いているサラリーマンだった。しかし、最近彼の心を悩ませているのは、同僚の佐藤明だった。


佐藤はここ数ヶ月、業績が振るわず、上司からの叱責が増えていた。佐藤の状況を見ているうちに、一郎は次第に彼の問題に共感し、心配し始めた。


ある日、一郎は昼休みに佐藤と一緒にランチを取ることにした。二人は近くのカフェでサンドイッチを食べながら話をした。


「佐藤君、最近どうだい?何か困っていることがあれば、相談に乗るよ」と一郎は声をかけた。


佐藤は少し驚いたような表情を見せたが、やがて話し始めた。「実は、家族のことで少し問題があって、それが仕事にも影響しているんです。特に妻の体調が悪く、家のことが大変で……」


一郎は佐藤の話を聞きながら、彼の苦しみを自分のことのように感じた。「それは大変だね。何か手伝えることがあれば言ってくれ。会社でもできるだけサポートするから」


「ありがとうございます。でも、これは自分の問題ですから、他人に迷惑をかけたくないんです」と佐藤は控えめに答えた。


その日の夜、一郎は家に帰ると、妻の美咲に佐藤のことを話した。「佐藤君の家族のことが心配で、何とか助けたいんだけど、どうすればいいのかな?」


美咲は優しく微笑んで答えた。「一郎さんの気持ちは素晴らしいけど、他人の疝気を頭痛に病んでしまってはいけないわ。佐藤さん自身が解決する力を信じてあげることも大切よ」


一郎はその言葉にハッとした。自分が佐藤の問題をすべて解決しようとするのは、逆に佐藤の成長を妨げることになるかもしれない。彼自身が問題と向き合い、解決する力を持っていることを信じるべきだと気づいた。


翌日、一郎は佐藤に話しかけた。「佐藤君、君が大変な時に少しでも力になりたいと思う。でも、君が自分の力で乗り越えることも大切だと思うんだ。困ったときはいつでも相談してくれ。君を信じているよ」


佐藤はその言葉に感謝し、少し表情が明るくなった。「ありがとうございます。一郎さんの言葉に勇気をもらいました。頑張ってみます」


その後、佐藤は少しずつ家族の問題を解決し、仕事にも前向きに取り組むようになった。一郎もまた、他人の問題に過度に介入せず、適度な距離感を持つことの大切さを学んだ。


「他人の疝気を頭痛に病む」とは、自分に直接関係のない他人の問題で悩むことを意味する。今回の経験で、一郎は他人を助けることと、自分自身のバランスを取ることの重要性を知り、より良い人間関係を築くことができたのだった。




ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

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