鯛の尾より鰯の頭(たいのおよりいわしのあたま)

 佐藤真由美は、都会の大手広告代理店で働くエリート社員だった。彼女は入社以来、いくつもの大きなプロジェクトを成功させ、周囲からも一目置かれる存在だった。しかし、そんな彼女にも一つの悩みがあった。それは、会社の中での自分の立ち位置だった。


大企業の一部で働いている以上、どれだけ優秀でも、自分の力を発揮できる場面は限られていた。真由美は、常に上層部の指示に従い、自分のアイデアを押し殺すことが多かった。大きなプロジェクトに関わることはできるが、その中で自分自身が主導権を握ることはできない。それが、次第に彼女のフラストレーションを増幅させていった。


ある日、真由美は大学時代の友人であり、地方で小さな広告会社を経営している山本から電話を受けた。山本は真由美に、自分の会社に来て一緒に働かないかと誘ってきた。


「今、うちの会社は小さいけど、やりがいはあると思う。君の才能を存分に発揮できる場所だよ。」山本は熱心に語った。


真由美は一瞬、驚いた。小さな会社で働くことなんて、これまで考えたこともなかったからだ。しかし、山本の話を聞いているうちに、ふとあることわざが頭に浮かんだ。それは「鯛の尾より鰯の頭」というものだった。


鯛の尾として大企業で目立たない存在でいるよりも、鰯の頭として小さな会社で自分の力を存分に発揮するほうが、ずっと充実した仕事ができるのではないか。真由美は、しばらく考えた後、思い切って山本の提案を受け入れることに決めた。


新しい職場に移った真由美は、すぐにその決断が正しかったことを実感した。小さな会社ではあったが、彼女は自分のアイデアを自由に発揮し、プロジェクトを主導することができた。彼女の経験と才能が評価され、会社の成長にも貢献できたのだ。


数年後、真由美の働く会社は順調に成長を続け、地域では知名度の高い存在となっていた。彼女は、自分の選択に誇りを持ち、鰯の頭として新しい道を切り開いたことを心から喜んでいた。



ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

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