大事の前の小事(だいじのまえのしょうじ)

 ある夏の日、田中一郎は自宅でのんびりと過ごしていた。彼は来週に控えた重要なプレゼンテーションの準備を終え、ようやく一息ついていた。プレゼンテーションは彼のキャリアを左右するもので、失敗は許されない。だからこそ、彼は完璧に仕上げたつもりだった。


そんな時、妻の美沙が声をかけてきた。「ねえ、リビングの電球が切れてるから交換してもらえない?」


一郎は少し面倒くさそうに答えた。「今忙しくないから、後でやるよ。今はリラックスしたいんだ。」


美沙はそれ以上言わず、仕方なくリビングの暗がりで過ごすことにした。しかし、その夜、一郎は急に停電が起こったことに気づいた。リビングの電球が切れたことに加え、他の部屋の電気も不調を感じていたのだが、それを放置していたせいで、家全体が真っ暗になってしまったのだ。


一郎は慌てて電気工事業者に連絡をしたが、対応は翌日以降になると言われてしまった。その夜、真っ暗な家で過ごさなければならなかった一郎は、落ち着かない時間を過ごすことになった。翌朝、寝不足のまま出勤し、大事なプレゼンテーションに臨んだが、疲れと集中力の欠如で、準備していた内容をうまく伝えられず、結果は芳しくなかった。


帰宅した一郎は、リビングの電球が交換されていることに気づいた。美沙が業者に頼んで修理してもらったのだ。彼は、ふと「大事の前の小事」ということわざを思い出した。大事な仕事に集中するあまり、小さな問題を軽視していた結果、それが大きな影響を及ぼしてしまったのだ。


「すまなかった、美沙。今度からは、どんな小さなことでもきちんと対処するよ。」


一郎は、今回の教訓を胸に刻み、これからはどんな些細なことでも疎かにしないことを誓った。何事も、小さな問題を見逃さずに解決することが、大事な結果を導く鍵だと、彼は改めて実感した。



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#田記正規 #読み方

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