住めば都
住めば都
遥は、大都会の真ん中で生まれ育った。東京の喧騒と華やかな街並み、毎日行き交う無数の人々。その中で生活することが、彼女にとっては当たり前だった。しかし、父親の仕事の都合で、突然、家族ごと地方の小さな村に引っ越すことになった。
「こんな田舎でどうやって暮らせばいいの?」と、遥は引っ越しの日からずっと文句を言い続けていた。静まり返った村、店も少なく、夜になると真っ暗な空に星が瞬く。それは都会では見られない景色だったが、彼女にとっては退屈以外の何物でもなかった。
新しい学校に通い始めても、都会の生活に慣れていた遥は村のペースに馴染めず、同級生たちともうまく打ち解けられなかった。都会の便利さが恋しく、毎日のように東京に戻りたいと親に嘆いた。
しかし、ある日、近所のおばあさんが遥に声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、手伝ってくれないかい?畑の収穫が終わったら美味しいスイカを食べよう。」
最初は気乗りしなかった遥だったが、断れずに手伝いを始めた。畑仕事は初めてで大変だったが、作業を終えた後に食べたスイカは驚くほど甘く、美味しかった。
「こんな美味しいスイカ、東京では食べられないよ」と、おばあさんは微笑んだ。
それ以来、遥は少しずつ村の生活に興味を持つようになった。朝早く起きて見た朝焼け、川のせせらぎの音、田んぼの中を泳ぐオタマジャクシの群れ。それらが都会にはない豊かさであることに気付き始めたのだ。
学校でも、地元の子供たちと徐々に打ち解けるようになり、田舎ならではの遊びやイベントに参加するようになった。村の夏祭りでは、夜空に打ち上げられる花火をみんなで見上げ、その迫力と美しさに心を奪われた。
「ここも悪くないかも…」
いつしか、彼女は東京に戻りたいと言わなくなっていた。都会の便利さや賑やかさに慣れていた彼女だったが、この小さな村にも、心地よい静けさと温かい人々との触れ合いがあることを知ったのだ。
月日が経ち、卒業式を迎えたころには、遥はすっかり村の生活が好きになっていた。都会の喧騒から離れたこの場所は、彼女にとって新しい「都」になっていたのだ。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
コメント
コメントを投稿