過ぎたるは及ばざるが如し(すぎたるはおよばざるがごとし)

 過ぎたるは及ばざるが如し


田中修一は、仕事熱心な男だった。大手企業で部長の座にまで上り詰めた彼は、周囲からも尊敬される存在だった。しかし、彼には一つ欠点があった。何事も徹底的にやりすぎてしまうのだ。


会社のプロジェクトを任されると、修一は完璧を求めるあまり、深夜まで残業を重ねた。部下たちにも高い基準を求め、細部にまで目を光らせた。おかげでプロジェクトは常に成功を収めたが、彼のやり方には少しずつ不満が募っていた。


ある日、修一の部署で大規模な新商品開発プロジェクトがスタートした。修一は当然のごとく、全員に厳しいスケジュールと高い目標を課した。毎日深夜まで会議が続き、修正を繰り返す日々。彼自身も寝る間を惜しんで働いた。


しかし、そんな彼の努力にもかかわらず、部下たちは疲弊し、次第にミスが増えていった。チームの士気も下がり、誰もが修一の背中に隠れ、意見を言うことすらためらうようになった。完璧を求めすぎた結果、逆にチーム全体がバラバラになりかけていた。


そんなある日、修一の上司である常務が彼を呼び出した。


「修一、お前のやり方には確かに成果がある。だが、最近のチームの状況を見ていると、少し行き過ぎているんじゃないか?」


修一は常務の言葉に戸惑いを感じた。自分はただ、最高の結果を出すために努力してきただけだ。なぜそれが問題なのか、理解できなかった。


「過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉を知っているか?」


常務は続けた。


「何事もやりすぎると、かえって逆効果だ。お前の完璧主義が、チーム全体の活力を奪ってしまっているんだ。成果は重要だが、チームのバランスを取ることも同じくらい大切なんだよ。」


その言葉が胸に刺さり、修一はふとこれまでの自分の振る舞いを振り返った。確かに、部下たちの顔には疲労の色が濃くなり、誰も自ら積極的に意見を出そうとしていなかった。自分のやり方が、結果的にチーム全体の力を押さえ込んでいたのかもしれない。


その夜、修一は家に帰って妻に相談した。


「最近、仕事で自分がやりすぎていたのかもしれないって言われたんだ。けど、頑張れば頑張るほど結果が出ると思ってたんだけどな…」


妻は静かにうなずきながら言った。


「修ちゃん、何事もバランスが大事よ。あまりに頑張りすぎると、自分も周りも疲れちゃう。それに、チームが一つになって動く方が、結果的にもっと大きな力になるんじゃない?」


その言葉に、修一は初めて気づかされた。頑張りすぎることが、かえって足りないことと同じような結果を生むという真実を。


翌日から、彼は少しずつチームに対する接し方を変えていった。目標は依然として高かったが、部下たちの意見を尊重し、無理を強いることはやめた。次第にチームの雰囲気は改善し、以前よりも良い結果を生み出すようになった。



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#田記正規 #読み方

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