据膳食わぬは男の恥(すえぜんくわぬはおとこのはじ)
据膳食わぬは男の恥
田中雄介は、三十歳を迎えたばかりのサラリーマンだった。これまでの人生、堅実で慎重な性格ゆえに、リスクを避けて生きてきた。しかし、最近の職場では、どうも周囲が自分より先に進んでいるように感じていた。後輩たちは積極的に新しいプロジェクトに挑戦し、上司に評価されている。その様子を横目に見ながらも、雄介は自分が今のままでいいのかと考えることが多くなっていた。
ある日、上司の山下が会議室で雄介を呼び止めた。
「田中、お前にチャンスがあるんだが、来月の新プロジェクトを任せる気はないか?」
雄介は驚いた。これは今までにない大きなチャンスだった。しかし、プロジェクトの規模が大きく、失敗したらどうなるかという不安が頭をよぎる。
「どうする、田中?やるか?」山下が雄介の顔を見つめる。
雄介はその場で答えられなかった。「少し考えさせてください」と言い、会議室を出た。
帰り道、雄介は友人の木村に相談した。木村は大学時代からの親友で、いつも雄介にとって的確なアドバイスをくれる人物だった。居酒屋で状況を説明すると、木村はビールを一口飲んでから、笑いながら言った。
「据膳食わぬは男の恥って知ってるか?」
「…どういう意味?」
「簡単に言えば、用意されたチャンスを逃すのは男の恥だってことだよ。お前はずっと慎重に生きてきたかもしれないけど、今はそのタイミングじゃないんじゃないか?これまでの経験があるからこそ、このチャンスが回ってきたんだろ?」
木村の言葉にハッとした。確かに、今まで避けてきたのは失敗を恐れる気持ちだった。しかし、挑戦しなければ何も変わらない。むしろ、今こそ挑むべきときなのかもしれないと考え始めた。
次の日、雄介は山下に会い、決意を告げた。
「プロジェクト、やらせてください。」
山下は満足そうに頷いた。「そうこなくちゃな、田中。お前ならできるさ。」
プロジェクトが始まると、雄介は忙しい日々を送ることになった。初めての大規模な案件でプレッシャーは大きかったが、周囲のサポートもあり、何とか乗り越えられた。最終的にプロジェクトは成功を収め、雄介は会社内で一目置かれる存在となった。
その夜、木村と再び居酒屋で乾杯した。
「お前、本当にやり遂げたな」と木村が笑う。
「お前の言葉がなかったら、きっと俺は今でも何もしないままだったよ」と雄介は感謝の言葉を口にした。
「据膳食わぬは男の恥、だろ?お前、ちゃんと食ったじゃないか」と木村はまた笑った。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
コメント
コメントを投稿