前車の覆るは後車の戒め(ぜんしゃのくつがえるはこうしゃのいましめ)

 前車の覆るは後車の戒め


ある地方の小さな村に、二人の農夫が住んでいた。一人は経験豊富な老農夫の田村、もう一人はまだ若い新米農夫の高橋だった。


ある年の春、村全体に農作物を守るための新しい方法が広まりつつあった。その方法とは、特別な肥料を使うことで作物の成長を促すというものであった。しかし、その肥料には一つ大きな問題があった。それは使い方を誤ると、土壌が劣化し、次の年には何も育たなくなる恐れがあるということだった。


田村は、この方法に懐疑的だった。彼は長年の経験から、新しい技術には必ずリスクが伴うことを知っていたため、慎重な姿勢を保っていた。しかし、若い高橋は、この新しい肥料に大いに期待を寄せ、すぐに使用することを決意した。


「これで今年の収穫はきっと大成功だ」と、高橋は胸を張った。


夏が過ぎ、秋が訪れた。高橋の畑は一時的に豊作を迎え、彼は村中の話題になった。しかし、田村はその姿を見て、静かに首を振った。


「前車の覆るは後車の戒め」と、田村は言い聞かせるように呟いた。


そして、翌年の春。村中が再び耕作の季節を迎えたが、高橋の畑は見るも無残な状態だった。肥料の過剰使用により、土壌は劣化し、何も育たなくなってしまった。高橋は困惑し、どうすればいいのか分からず、田村のもとへ相談に訪れた。


「どうすればいいのでしょうか…」と、高橋は肩を落として田村に尋ねた。


田村は静かに微笑みながら答えた。「前車の覆るは後車の戒めだ。私たちは皆、他人の失敗から学ばなければならない。お前は今年、大きな教訓を得たのだ。それを次に生かすことが大切だ。」


高橋はその言葉に深く頷き、田村の指導を受けながら畑を立て直す努力を始めた。彼はこの経験を通じて、安易に新しいことに飛びつくのではなく、慎重に考え、他人の失敗から学ぶことの重要性を身をもって理解した。





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