正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる)
正直の頭に神宿る
田中誠は小さな町工場で働く、ごく普通のサラリーマンだった。日々、真面目に仕事をこなし、家族を大切にする平凡な生活を送っていた。しかし、誠には一つの信念があった。それは「どんなに小さなことでも、正直でいること」だ。
ある日、誠の働く工場に大きな仕事のチャンスが舞い込んだ。大手企業からの大量発注で、成功すれば工場の業績は一気に跳ね上がるだろう。しかし、工場の上司である山崎課長は、少し不正をすることで利益を倍増させようと企んでいた。具体的には、材料の品質を下げてコストを削減し、その分を利益として吸い上げるという案だった。
「田中君、少しばかり品質を落としても、誰にもバレやしないさ。大事なのは結果だ。これでみんなが得をするんだから」と山崎課長は誠に打ち明けた。
誠は一瞬迷った。確かに、課長の言う通り、誰も気づかないかもしれない。そして、その利益が工場全体に還元されれば、彼自身も恩恵を受けるだろう。しかし、誠の胸には「正直に生きるべきだ」という思いが強く残っていた。
「申し訳ありませんが、私はその提案には賛成できません。品質を下げるのはお客様を裏切ることになりますし、長い目で見て信頼を失うことになるでしょう」と誠は静かに、しかし毅然と答えた。
山崎課長は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに鼻で笑った。「そんなことを言っているから、君は出世しないんだよ。まあ、いいさ。君の意見は聞かないことにする」と冷たく言い放ち、計画を実行に移すことにした。
しかし、数ヶ月後、その計画は大きな問題を引き起こした。品質の低下が顧客にバレ、大手企業は契約を打ち切ることを決定。工場は大きな損失を抱え、山崎課長も責任を取らされる形で辞職に追い込まれた。
一方、誠はその騒動には巻き込まれず、むしろ正直に自分の意見を貫いたことで、工場の他の社員たちからの信頼を得ることになった。さらに、工場の新しい取引先が誠の誠実さを評価し、工場全体に再び大きなチャンスが訪れることとなった。
誠は思った。「正直に生きることは、時には不利に見えるかもしれない。しかし、正直であることで、最後には必ず神が宿るのだ」と。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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