折檻(せっかん)
折檻
真冬の寒風が吹きすさぶ山の村に、名高い鍛冶職人、村尾清次がいた。彼は弟子たちに対して非常に厳しく、技術を一切妥協せず、わずかな失敗でも容赦なく叱りつけることで知られていた。
ある日、最年少の弟子である健太郎は、初めて自分の作った鍬(くわ)を清次に見せた。鍛冶の修行に入って三年目、彼は自信満々で、今までの努力が結実したと感じていた。しかし、清次が鍬を手に取るやいなや、その眉がぴくりと動いた。
「健太郎、お前はこれを誇れる出来だと思っているのか?」
その声は冷たく、鋭い。
「はい、師匠。今までの中で一番の出来です。完璧だと…」
健太郎が言い終わる前に、清次は鍬を投げつけるように地面に落とした。
「この程度で満足するとは、甘い。鉄が鈍く、刃の角度も狂っている。こんな鍬では田畑を耕すどころか、一日で折れる!」
健太郎はショックを受け、言葉が出なかった。彼の顔には悔しさと怒りが混じった表情が浮かんだが、清次はそれを見逃さずにさらに声を荒げた。
「お前がここで技術を磨く理由は何だ?自分の腕を誇るためか?違う!村の人々が安心して使える道具を作るためだ。それを忘れる者は、この鍛冶場にいる資格はない!」
清次はこれまでの彼の失敗を細かく指摘し、その甘さを厳しく叱責した。健太郎は拳を握りしめ、涙をこらえて立ち尽くしたが、心の中では燃え上がるような感情が渦巻いていた。
数日後、健太郎は再び鍬を作り直した。今度は、あらゆる細部に注意を払い、師匠の言葉を胸に刻みながら、真剣に打ち続けた。そして、彼の新たな鍬を再び清次の前に差し出した。
「もう一度見てください、師匠。」
清次は無言で鍬を手に取り、じっくりと見つめた。彼は刃を試し、鍛えられた鉄の感触を確かめると、静かにうなずいた。
「よくやった。これが本来の鍛冶だ。」
その一言は、健太郎の心に深く響いた。折檻の厳しさがあったからこそ、彼は自分の限界を超え、本当の職人の道を歩み始めたのだった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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