積善の家に余慶あり(せきぜんのいえによけいあり)
積善の家に余慶あり
山間の小さな村に、徳次郎という名の農夫がいた。彼の家系は代々、この村で農業を営んできたが、特筆すべきはその家の善行だった。徳次郎の父も祖父も、困っている村人には惜しみなく助けの手を差し伸べ、村のために働いてきた。
「人に親切にしておけば、いつかその恩が返ってくるものだ」
これは、彼の家で代々伝えられてきた言葉だった。徳次郎もまた、父の教えに従い、周囲の人々に親切に接し、できる限りの支援を惜しまなかった。たとえ自分が貧しい時でも、誰かが困っていれば、持てるものを分け与えた。
そんなある年、村に大きな災害が訪れた。連日の豪雨により、田畑が水に浸かり、収穫が絶望的な状況に陥った。村人たちはみな困窮し、どうやって生き延びるか途方に暮れていた。徳次郎もまた、その年の作物をほとんど失い、家族の食糧さえ心もとない状態になっていた。
「今年は、どうやって乗り越えればいいのか…」
疲れ切った表情で、徳次郎は空を見上げた。その時、村の入口に一台の荷車がやってきた。荷車を引いていたのは、かつて徳次郎が助けた隣村の商人、兵助だった。
「徳次郎さん!あなたの善行に感謝する日が来た。私の村も豊作とは言えないが、少しばかり余った米や野菜を持ってきたんだ。これでしばらくは凌げるだろう。」
徳次郎は驚きのあまり言葉を失った。兵助はさらに、かつて徳次郎が助けた他の村々の人々が、彼に感謝の品を届けていることを伝えた。
「お前の父も祖父も、いつも善いことをしていた。それが今になって、こうして報われているんだな」
村の長老もまた、徳次郎の家族の歴史を振り返りながら、しみじみと言った。その言葉に、徳次郎は涙が溢れた。
「積善の家に余慶あり…父がよく言っていた通りだな」
徳次郎は、善行が決して一時的なものではなく、時を経て思わぬ形で返ってくることを身をもって知った。村人たちはその後、互いに助け合いながら困難を乗り越え、やがて村全体が再び豊かさを取り戻していった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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