地獄で仏に会う(じごくでほとけにあう)
「絶望の果てに」
優子は人生のどん底にいた。勤めていた会社が倒産し、失業した上に、家族との関係も冷え切っていた。友人に相談しようとしても、みんな忙しそうで相手にしてもらえず、どこにも逃げ場がないように感じていた。
貯金は底をつき、家賃の支払いにも困る日々。心の中に湧き上がるのは、焦りと絶望だけだった。そんなある日、優子は雨の中、重い足取りで街をさまよっていた。傘を持たずにずぶ濡れになった彼女は、もう何もかもがどうでもいいと感じていた。
「このまま消えてしまいたい……」
ふと、通りの片隅に小さな古本屋が目に入った。優子は雨宿りのつもりで中に入ることにした。薄暗い店内には、埃をかぶった本が静かに並んでいる。懐かしい香りに包まれながら、彼女は無意識に一冊の本に手を伸ばした。
それは、彼女が子供の頃に母親がよく読んでくれた絵本だった。「この絵本、まだ残ってたんだ……」優子は本を手に取り、懐かしい記憶が蘇るのを感じた。母親が優しく絵本を読んでくれた時の安心感、ぬくもり――それは、彼女が忘れていた希望の光だった。
その時、店主が優しく声をかけてきた。「その本、いい本だよ。昔はたくさんの子供たちがこれを読んで、笑顔になったんだ。」
優子は思わず涙がこぼれた。「こんな時に、こんな懐かしいものに出会うなんて……まるで地獄で仏に会った気分です。」
店主は微笑みながら、優子に温かいお茶を差し出した。「人生には、思わぬ救いが待っているものだよ。今はつらいかもしれないけど、この先には必ずいいことがあるからね。」
その言葉に、優子は久しぶりに心の底から温かさを感じた。絶望の中にいた彼女は、思いもよらない場所で小さな救いに出会ったのだ。地獄のような日々の中で、彼女はこの古本屋という「仏」に出会ったのだった。
それから数日後、彼女は再び古本屋を訪れ、店主と話すことが日課になった。彼女の心には少しずつ希望が戻り、少しずつ前に進む力を取り戻していった。古本屋での出会いは、絶望から立ち上がるための最初の一歩となった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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