鹿を指して馬と為す(しかをさしてうまとなす)
「真実の姿」
大企業に勤める高橋は、部長昇進を目前に控えていた。彼は自らの成果を強調し、上司や同僚たちの評価を得てきた。だが、その裏には隠された策略があった。実は、高橋は他人のアイデアや成果を自分のものとして報告していたのだ。
その日、会議室では新しいプロジェクトの発表が行われていた。高橋は自信満々に、チームの功績を自分一人の手柄のように語り、さらに具体的な数字や成果を誇張して伝えた。部下たちは心の中で不満を抱きながらも、誰も口に出せなかった。
「今回の成功は、私の戦略が功を奏した結果です。皆さんの協力にも感謝していますが、やはりリーダーシップが重要ですね。」
高橋は満面の笑みで話し続け、上司たちも頷いていた。彼の言葉は、鹿を指して馬と言わんばかりの虚偽に満ちていた。しかし、その場にいる誰もがそれに異議を唱えられず、彼の偽りのリーダーシップを認めるしかなかった。
その一方で、プロジェクトの真の立役者であった中村は、言葉を飲み込んでいた。彼は長い間、高橋にアイデアを盗まれ、自分の貢献を無視され続けてきた。しかし、会社の上下関係の中で反論する勇気を持てず、ただ沈黙を守っていた。
会議が終わり、オフィスに戻った中村は一人考え込んでいた。高橋のような嘘がまかり通る現実に苛立ちながらも、自分がどうすべきかを迷っていた。しかし、そんな彼に思わぬチャンスが訪れる。
ある日、社内で極秘プロジェクトのメンバーに選ばれることになった。そこでは、会社の未来を左右する大きな意思決定が行われる予定だった。中村はついに、自分の実力を証明する機会が訪れたと感じた。
プロジェクトが進む中、中村は懸命に働き、自分の意見を積極的に出すようになった。そして、プロジェクトが成功した時、今度は彼が主導したと誰もが認める結果となった。真の実力が評価されたのだ。
その報告会では、今度は高橋ではなく、中村が主役だった。部屋中が彼の努力を称賛し、高橋のような偽りの手柄は完全に消え去っていた。
「鹿を指して馬と為す者は、いつか真実の前に敗れる。」中村はそう心の中で呟きながら、自分の誇りを取り戻した。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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