触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし)
「静かなる選択」
佐藤は、職場での人間関係に常に気を遣っていた。特に同僚の田中は、何かと問題を引き起こすトラブルメーカーだった。最近では、部署内でのあるプロジェクトの進め方について、田中が強く主張し始め、周囲を巻き込んで争いを起こしていた。上司や他の同僚たちもその意見に振り回され、職場の空気はどんどん悪くなっていた。
ある日、田中は佐藤に「お前はどう思う?」と突然問いかけた。プロジェクトの進め方について賛成か反対か、明確に立場を示して欲しいというのだ。しかし、佐藤は内心困惑した。田中に対抗することは職場での立場を危うくするかもしれないし、かといって安易に賛成すると、後々の責任を負う羽目になるかもしれない。
佐藤はしばらく黙った後、冷静に「僕は特に意見がないです」と答えた。田中は一瞬驚いた顔をしたが、「ふん、まあいいさ」と吐き捨てるように言って去っていった。
周りの同僚たちは、佐藤の曖昧な態度を見て「逃げたな」と思ったかもしれない。しかし、佐藤は自分なりの信念で行動していたのだ。「触らぬ神に祟りなし」、無駄に巻き込まれることで余計なリスクを負うのは得策ではないと考えていた。確かに田中に賛成すれば一時的に安泰かもしれないが、その先に待つ問題に巻き込まれるのは避けたかった。
その後、プロジェクトは田中の提案通りに進められたが、結果は大失敗に終わった。田中は責任を追及され、上司から厳しい叱責を受けた。周りも田中に同調していた者たちが批判され、職場の空気はさらに悪化していった。
佐藤はその混乱を静かに見守っていた。自分が巻き込まれなかったことに安堵し、改めて「触らぬ神に祟りなし」の教訓をかみしめたのだった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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