去る者は日々に疎し(さるものはひびにうとし)

 「去りゆく絆」


三年前、大学を卒業する日、健太と優斗は固い握手を交わした。二人は幼い頃からの親友で、同じ大学に進学し、何事も一緒に乗り越えてきた。卒業後、健太は地元の会社に就職し、優斗は都会の一流企業に採用された。


「どんなに離れていても、俺たちはずっと親友だよな」と優斗は言い、健太も頷いた。しかし、別れの瞬間はあっという間に訪れ、互いに新しい生活が始まった。


最初のうちは、頻繁に連絡を取り合い、互いの近況を話し合っていた。週末にはオンラインゲームを一緒に楽しんだり、たまに都内で会って飲みに行ったりすることもあった。しかし、時間が経つにつれて、徐々に連絡の頻度は減っていった。忙しい仕事、異なる環境、そして新しい人間関係が二人の間に距離を作り始めていた。


半年が過ぎ、一年が経ち、健太はふと気づいた。優斗と最後に会ったのはいつだっただろうか。LINEのトークも、何週間も未読のままだ。健太は一度連絡を取ろうと思ったが、タイミングが合わず、いつの間にか日常に流されていった。


ある日、共通の友人から、優斗が婚約したという話を聞いた。健太は驚き、そして少しだけ寂しい気持ちになった。昔なら、真っ先に自分に報告が来るはずの話題だったはずだ。それが、第三者から聞かされるという現実が、二人の関係の変化を如実に物語っていた。


健太は結局、優斗にお祝いのメッセージを送ったが、返事は簡単な「ありがとう」だけだった。かつては長い時間を共有し、互いのすべてを知っていたはずの二人が、今ではほんの数行のメッセージを交わすだけの関係になってしまった。


「去る者は日々に疎し」。健太は、そのことわざの意味を痛感した。人は誰もが時間の流れの中で変わり、新しい関係や環境に適応していく。かつての絆は確かに強かったが、今ではその絆も風化しつつあった。


それでも、健太は後悔はしていなかった。人生は続き、道は別れていくものだ。それが自然なことであり、すべての人が通る道だからだ。いつか再び会う日が来るかもしれない。その時には、また新たな形で友情を再構築できるかもしれないと、健太は静かに思った。




ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

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