塞翁が馬(さいおうがうま)

 辺境の小さな村に、慎重な性格の男、栄次が住んでいた。栄次は何事にも計画を立て、リスクを避けて生きることを信条としていた。


ある日、栄次の隣村の商人が、希少な薬草がたくさん取れる場所を見つけたと噂話を持ちかけてきた。その薬草は非常に高値で取引されるもので、栄次は少しばかり興味を持ったが、詳しく調べずに動くのは不安だった。


それから数日後、隣村の商人が他の村人を集め、薬草採集を開始すると、噂通り豊かな収穫を得たのだと見せびらかした。村人たちは栄次を笑い、「機会を逃したな」とからかった。


「塞翁が馬さ」と栄次は心の中で呟き、笑って受け流した。だが内心は少し動揺していた。自分がいつも慎重すぎるのか、今更ながら考え直し始めたのである。


その夜、突然の嵐が吹き荒れ、薬草の山を包む岩山が崩れ落ちた。隣村の商人たちは危うく命を落としかけ、採集していた薬草の大半も土砂に埋まってしまった。命拾いした商人は、これに懲りて採集を諦めて村へ戻っていった。


この出来事を聞いた村人たちは、今度は逆に栄次を称え、「やはりお前の判断は正しかった」と褒めた。しかし、栄次は首を横に振り、ただ「塞翁が馬さ」とだけ答えた




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#田記正規 #読み方

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