子ゆえの闇(こゆえのやみ)

 雪が降り積もる冬の夜、加代子はふと、自分の息子・拓也の部屋を訪れた。拓也は受験を控えており、日夜机に向かって勉強に励んでいるように見えていた。しかし最近、どこか上の空のような態度が目立つようになり、彼が本当に勉強に集中しているのか気になっていたのだ。


「拓也、ちゃんと勉強しているのかい?」と部屋に入ると、彼は一瞬驚いた表情を見せ、机の上の何かを急いで隠した。その動きに不信感を覚えた加代子は、「それ、何?」と尋ねたが、拓也は「別に、大したものじゃない」と目を逸らして答えた。


加代子は、親として子供を信じたい気持ちと、何か隠しているのではないかという疑念との間で揺れた。息子に無理に聞き出すのもためらわれたが、放っておくわけにもいかない。もしかしたら何か悩んでいるのかもしれないという思いが募る。


夜も更け、加代子は一人で考え込んでしまった。拓也を問い詰めたい気持ちと、彼のプライバシーを尊重したい気持ちが、心の中でせめぎ合っている。「子ゆえの闇」という言葉が頭をよぎる。愛するがゆえに知りたい、しかし知ることで親子の関係が壊れるかもしれない――。そんな葛藤に苦しむ加代子は、結局その夜は問い詰めずにそっと部屋を出ることにした。


次の日の朝、拓也は何事もなかったかのように元気に学校へ行った。彼の笑顔を見て、加代子は自分が思い過ごしだったのかもしれないと少し安心したが、彼の心の闇はまだわからないままのような気がした。それでも、いつか拓也が自分のことを話してくれる日を待とうと、加代子は静かに決心するのだった。



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#田記正規 #読み方

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