田作の歯軋り(ごまめのはぎしり)
陽一は小さな町工場の職人で、日々黙々と自分の仕事に取り組んでいた。彼の技術は確かだったが、会社の規模も影響し、大手と比べて受注が少ない状況が続いていた。そんな中、町全体で開催される製品発表会の知らせが届いた。陽一は自分の腕を試したいと思い、新たに工夫を凝らした製品を準備することにした。
発表会当日、陽一の工場のブースは大きな企業に囲まれ、どこか陰に追いやられたように見えた。展示を始めたものの、大勢の人々は目の前の大手の派手なブースに惹きつけられ、陽一の工場を覗く人はまばらだった。彼の胸に「田作の歯軋り」という言葉が浮かんだ。努力しても小さな存在であるがゆえに、その声は届かず、ひたすら歯軋りするしかない己の姿が、まさにこの言葉に重なる気がした。
しかし陽一は、黙々と製品を磨き続けた。午後になって、ふと一人の若い技術者が彼のブースに足を止め、興味深そうに製品を見始めた。彼は手に取り、その技術力の高さに驚いた表情を浮かべ、「これ、すごいですね。よかったら詳しく教えてください」と陽一に話しかけた。
小さな声でも、それを聞き入れてくれる人がいる限り、陽一の技術と信念は伝わるのだと感じた。翌日、大手との競争においても、真摯に続けてきた職人としての矜持を胸に、また新たな一歩を踏み出す決意を固めた陽一だった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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