事実は小説よりも奇なり(じじつはしょうせつよりもきなり)
「奇跡の遭遇」
山田夏美は、日々の生活に飽き飽きしていた。都会のオフィスでルーチンワークに追われる日々。面白みのない上司に、何も変わらない日常。彼女はどこかで、人生に何か特別な出来事が起こるはずだと淡い期待を抱いていたが、それも徐々に薄れていた。
「人生って、ただの繰り返しなのかしら?」と彼女は溜息をつきながら、いつものカフェでコーヒーをすする。小説や映画のようなドラマチックな出来事が自分の身に起こるわけがない、と決め込んでいた。
その日も特別なことは何もないはずだった。オフィスでの仕事を終え、夏美は帰りの電車に乗り込んだ。混雑した車内で立っていると、ふと隣の席に座っている男性に目が留まった。その顔に見覚えがあった。だが、すぐに頭の中で否定した。
「まさか、そんなわけない。あの人はテレビに出てる俳優さんじゃない…?」
男性は帽子を深く被っていたが、時折スマホを操作する姿や横顔が、確かにどこかで見た有名人に似ている。彼女は好奇心に駆られ、何度も彼の顔を確認しようとしたが、あまりにも信じがたくて、話しかける勇気が出なかった。
その時、急に電車がガタンと大きく揺れ、彼女はバランスを崩してその男性の腕に倒れ込んでしまった。
「す、すみません!」
顔を真っ赤にして謝る夏美に、男性はやさしく微笑みかけた。「大丈夫ですよ。」その声を聞いた瞬間、夏美は確信した。その声は、彼女が大好きなドラマに出演している俳優、桐生颯太の声だったのだ。
「本当にあなた、桐生さんですか?」彼女は勇気を振り絞って尋ねた。
桐生は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに静かに頷いた。「ええ、そうです。でも、ここでは内緒にしてくださいね。」と、彼はウインクをして微笑んだ。
夏美は驚愕した。あの有名な俳優とこんな風に電車で出会い、しかも会話をするなんて、まるで映画のワンシーンのようだった。
「事実は小説よりも奇なり、とはこのことね…」彼女は心の中で呟いた。こんな非現実的な出来事が、自分の人生に本当に起こるなんて。
その後、駅に到着し、桐生は静かに車内を後にしたが、夏美の心にはその日の出来事がずっと鮮明に刻まれた。いつもの退屈な日常が、突然ドラマチックに変わった瞬間。夏美はこの出会いを、ずっと忘れないだろうと思った。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
コメント
コメントを投稿