桃李言わざれども下自ずから蹊を成す(とうりいわざれどもしたおのずからけいをなす)
美しい山間の小さな村に、サトルという青年が住んでいた。彼は村の学校で教師をしており、その誠実で温かい人柄から生徒や村人たちに慕われていた。サトルは決して自分の功績を誇らず、黙々と村の子供たちのために尽力していた。
ある年、村の学校に新しい校長が赴任してきた。彼は外部から来た経験豊富な教育者で、村の学校を良くしようと熱心に取り組んでいた。しかし、彼はサトルの控えめな働きぶりに気付くことなく、むしろ目立たない教師だと見なしていた。
校長は学校の改善計画を立てる際、派手な成果を上げる教師たちを中心に据え、サトルには目立たない役割を与えた。サトルはそのことに不満を持たず、与えられた仕事を誠実にこなし続けた。彼のクラスの子供たちは、サトルの優しさと真摯な指導に日々感謝していた。
ある日、大きな嵐が村を襲い、学校の一部が損壊してしまった。村人たちは協力して学校の修理に取り組むことにしたが、人手も資材も足りなかった。そのとき、サトルは村中を回り、協力を呼びかけた。彼の真摯な姿勢に触発され、村人たちは次々と手を差し伸べ、学校の修理に参加した。
校長はその様子を見て驚いた。彼が頼んでも集まらなかった人々が、サトルの一声で集まり、熱心に働いていたのだ。修理作業が終わった後、校長はサトルに尋ねた。「どうして君の呼びかけにこんなにも多くの人が集まったのか?」
サトルは静かに微笑みながら答えた。「私が特別なことをしたわけではありません。ただ、日々子供たちと村のためにできることをしてきただけです。」
校長はその言葉を聞いて、「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」ということわざを思い出した。桃や李の木は何も言わなくても、その美しい花や実に引かれて人々が集まり、自然とその下に道ができるという意味だ。サトルの謙虚で誠実な姿勢が、村人たちの信頼を勝ち得ていたのだ。
その後、校長はサトルの真価を理解し、彼の意見を尊重するようになった。サトルは引き続き、自分の役割を果たしながらも、村の学校全体の発展に寄与していった。彼のもとには自然と多くの生徒や村人たちが集まり、学校は以前にも増して活気に満ちた場所となった。
サトルの物語は、自己宣伝をせずとも誠実な行いが人々に伝わり、自然と信頼を得ることができるという教訓を示していた。彼の姿勢は村の未来を照らす灯火となり、村人たちの心に深く刻まれたのだった
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
コメント
コメントを投稿