月に叢雲、花に風(つきにむらくも、はなにかぜ)
小さな山里に住む少女、サクラは、その美しい歌声で村中の人々に愛されていた。彼女の歌声は、まるで春の桜が咲き誇るように美しく、村の祭りや行事でいつも人々を魅了していた。
ある春の日、村では毎年恒例の桜祭りが開催されることになった。サクラは祭りのハイライトとして、夜桜の下で歌うことを頼まれていた。彼女はその日のために一生懸命練習し、心を込めて歌う準備をしていた。
祭りの日がやってきた。村中が華やかな飾りで彩られ、屋台の賑わいと共に桜が満開に咲き誇っていた。サクラは美しい着物を纏い、満月の夜空の下で歌うことに胸を高鳴らせていた。
しかし、その日の夕方から急に天気が崩れ始めた。黒い雲が空を覆い、風が強まり、桜の花びらが舞い上がるように散っていった。サクラは心配そうに空を見上げ、「月に叢雲、花に風だわ」と呟いた。このことわざは、良いことには障害が付きものだという意味を持っていた。
サクラは村の人々に、「天気が悪くなっても、私は歌います。みんなで楽しんでください」と言った。村人たちは彼女の決意に感動し、祭りの会場に集まった。
夜になると、雨が降り出し、風がさらに強まった。月は雲に隠れ、夜空は暗くなったが、サクラは一歩も引かず、舞台に立った。彼女の歌声が響き渡ると、不思議と風が静まり、雨も小降りになった。
サクラの歌声は、まるで桜の花びらが舞い降りるように、優しく美しく響き渡った。村人たちは雨にも負けず、彼女の歌に耳を傾け、その場に集まった全員が感動の涙を流した。
その瞬間、雲が割れ、月が再び顔を出し、夜桜が月光に照らされて美しく輝いた。サクラの歌声と共に、村全体が一つになり、桜の花びらが風に舞う中で、祭りは一層の盛り上がりを見せた。
祭りが終わった後、村の長老がサクラに近づき、「サクラ、君の歌声は奇跡を起こした。『月に叢雲、花に風』の困難も、君の強い心と美しい歌で乗り越えられたんだ」と言った。
サクラは微笑み、「皆さんが支えてくれたおかげです。困難があっても、心を込めて歌い続けることが大切だと学びました」と答えた。
その後もサクラは村の行事や祭りで歌い続け、その歌声は村の宝として大切にされるようになった。彼女の姿勢は、村の人々に勇気と希望を与え、「月に叢雲、花に風」ということわざの意味を新たにするものとなった。
サクラの歌声は、月夜に舞う桜の花びらのように、いつまでも村の人々の心に響き続けたのだった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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