茶腹も一時(ちゃばらもいっとき)

 ある日の午後、賑やかな城下町に住むリツコという女性が、仲の良い友人たちを招いて茶会を開くことにした。リツコは茶の湯をたしなみ、美しい茶器やおいしい茶菓子を準備して、友人たちをもてなすことを楽しみにしていた。


友人たちが集まり、茶会が始まると、会話は自然と弾み、笑い声が絶えなかった。しかし、そのうちの一人、ケンジという男性が、ふとため息をつきながら言った。「お腹が空いて仕方がない。朝から何も食べていなくて、もう我慢できないよ。」


リツコは心配そうにケンジを見て、「それは大変ね。でも、今は茶会の最中だから、軽い茶菓子しか用意していないわ。どうしようかしら?」と言った。


そこで、他の友人であるサトシがにっこり笑って言った。「まあ、ケンジ。茶腹も一時というじゃないか。少しの間、これで空腹をしのいでみて。それに、リツコの茶菓子はとても美味しいんだから、きっと満足するよ。」


ケンジは仕方なく茶菓子を一口食べてみると、その美味しさに驚いた。「確かに美味しいね。でも、これだけではすぐにまたお腹が空きそうだ。」


リツコは笑顔で、「ケンジ、茶腹も一時というのは、本当にその通りよ。しばらくの間、お腹を満たすだけでも、気持ちが楽になるものよ。そして、楽しい会話と素敵な時間が、きっとお腹の空きも忘れさせてくれるわ」と言った。


ケンジはその言葉に納得し、リツコの茶菓子とお茶を楽しむことにした。友人たちとの会話はさらに盛り上がり、笑い声が響き渡る中、ケンジも次第に空腹を忘れて楽しむことができるようになった。


茶会が終わる頃には、ケンジもすっかり満足し、「リツコ、本当にありがとう。お茶と茶菓子、それに楽しい時間のおかげで、すごく幸せな気分になれたよ。茶腹も一時、という言葉の意味を実感したよ」と感謝の意を伝えた。


リツコは微笑んで、「それは良かったわ。私もみんなと過ごすこの時間がとても楽しかった。またぜひ茶会を開きましょう」と答えた。


その後、友人たちはリツコの家を後にし、またそれぞれの生活に戻っていった。しかし、楽しいひとときを過ごしたことで、みんなの心には温かな思い出が残った。


そして、ケンジはその日の経験を通じて、「茶腹も一時」ということわざの深い意味を学び、日常の小さな幸せを大切にするようになったのだった。



ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

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