月夜に提灯(つきよにちょうちん)

 古びた田舎の村に、ヤスオという若者が住んでいた。ヤスオは心優しく、いつも周囲の人々を助けることを喜びとしていた。彼は特に、村の年老いた人々や子供たちのために尽力していた。しかし、彼は自分のこととなると、どこか要領が悪く、不器用だった。


ある満月の夜、ヤスオは村の友人たちと集まり、祭りの準備をしていた。村の神社で行われる秋の収穫祭は、村中の人々が楽しみにしている一大イベントだった。提灯を飾り付けたり、屋台を設置したりと忙しい中、ヤスオはふと思い立ち、「月夜だから、提灯をもっと増やしてみよう」と提案した。


友人たちは笑って、「ヤスオ、それは『月夜に提灯』だよ。こんなに明るい夜に、提灯なんて必要ないさ」と言った。しかし、ヤスオは「いや、提灯が多い方が華やかで楽しいじゃないか」と頑張って提灯を追加し続けた。


その夜、祭りが始まり、村中が賑わいを見せた。提灯の光が月明かりに重なり、幻想的な雰囲気を作り出していた。村の子供たちは提灯を見て喜び、老人たちは昔の祭りを思い出して懐かしんだ。ヤスオもまた、自分の努力が報われたような気持ちで祭りを楽しんでいた。


しかし、祭りの途中で突然の雨が降り始めた。月は雲に隠れ、夜は一気に暗くなった。提灯の光だけが祭りを照らし続け、参加者たちはその光に救われた。ヤスオの提灯が、暗闇の中で唯一の明かりとなったのだ。


村人たちはヤスオに感謝し、「ヤスオのおかげで、こんな夜でも楽しく過ごせたよ。月夜に提灯と言って笑ったけど、やっぱり君の考えは正しかったんだな」と口々に称賛した。ヤスオは少し照れながらも、「みんなが楽しんでくれて良かった」と笑顔で答えた。


その後も、ヤスオは村の行事や日常の中で、いつも誰かのために尽力し続けた。彼の行動はしばしば「月夜に提灯」のように見えたが、その一生懸命な姿勢と優しさは、村の人々にとってかけがえのないものとなった。


時が経ち、村の人々は「月夜に提灯」ということわざを、ヤスオの思いやりと工夫の象徴として語り継ぐようになった。ヤスオの姿勢は、周囲を明るく照らし続け、村の未来を輝かせる力となっていた。


ヤスオの提灯は、単なる飾り以上の意味を持ち、人々の心に温かい光を灯し続けるものとなったのだった。



ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方

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