大器晩成(たいきばんせい)
山の麓に広がる小さな村に、一人の若者が住んでいた。彼の名前は幸太。幸太は幼い頃から村の皆に「のんびり屋」と呼ばれ、何をするにも他の子供たちに比べて遅かった。木登りも走るのも、勉強も仕事も、幸太はいつも一歩遅れていた。
幸太の父親は村で名の知れた職人で、木工細工が得意だった。彼は息子にもその技術を教えようとしたが、幸太はなかなか上達しなかった。村の人々は次第に彼を見下し、幸太自身も自信を失いかけていた。
しかし、幸太の母親だけは彼を励まし続けた。「お前は焦らず、自分のペースでいいんだよ」と優しく言い聞かせた。「大器晩成という言葉があるように、お前はきっと、時間が経てば素晴らしいものを生み出すことができるさ。」
そんなある日、村に大きな祭りが近づき、村人たちは新しい神輿を作ることになった。名高い職人たちが集まり、それぞれが腕を振るった。しかし、完成に近づくにつれ、どうしても一つの部分だけがしっくりこない。村人たちは頭を抱えたが、どうにもならなかった。
その時、幸太はそっと神輿に近づき、その欠けている部分を見つめた。彼は自分が作った木片を手に取り、何度も削り、細かく調整していった。何日もかけて少しずつ手を入れていくうちに、次第に形が整い、最後には見事に神輿と一体化する木片が完成した。
村の職人たちはその見事さに驚き、幸太がこの作品を作り上げたことに信じられない思いだった。彼らはこの木片が神輿の仕上げにぴったりと合うことに感動し、彼を称賛した。
「幸太、お前は素晴らしい職人だ。今までずっと見過ごしていたが、お前には本当に大きな才能があったんだな。」
幸太は恥ずかしそうに笑いながら答えた。「僕はずっと、ただゆっくりしているだけかと思っていました。でも、母さんが言った通り、大器晩成だと信じて続けてよかった。」
それ以来、幸太は村の中でも一目置かれる職人となり、彼の作る作品は多くの人々に愛されるようになった。彼が遅咲きの花であったように、その作品もまた時間をかけて美しく花開いたのである。
「大器晩成」という言葉は、村人たちにとっても深い意味を持つものとなり、幸太の努力と成功を象徴する言葉として語り継がれたのだった。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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