船頭多くして船山に登る(せんどうおおくしてふねやまにのぼる)
船頭多くして船山に登る
ある小さな町に、新しい商業施設を建設する計画が持ち上がった。町の人々はこの計画に大いに期待しており、町全体が活気に満ちていた。プロジェクトを成功させるため、町の有力者たちはこぞって委員会に参加し、それぞれの意見を出し合うことになった。
町長の田中は、町の未来を見据えて、施設の設計や運営方針に関して熱心に意見を述べた。地元の名士である山田は、伝統を重んじるべきだと主張し、昔ながらの建築様式を取り入れることを提案した。さらに、経済界の重鎮である鈴木は、最新のテクノロジーを活用したハイテク施設にすべきだと主張した。
委員会の会議は連日行われたが、それぞれが自分の意見に固執し、なかなか合意に至らなかった。誰もが自分の考えこそが最良だと信じて疑わず、他人の意見を聞き入れようとはしなかった。
「このままでは、計画が進まない…」
田中は焦りを感じ始めていたが、誰の意見を優先するべきかも判断がつかず、会議は堂々巡りを続けた。
ついに、施設の設計図が完成したが、それは各々の意見を無理やり取り入れた結果、統一感のないものとなっていた。施設のデザインは古めかしくもあり、ハイテクでもあり、どこか中途半端な印象を受けた。
「これで本当にいいのか?」
田中は不安を抱えながらも、プロジェクトを進めることを決断した。しかし、工事が始まると問題が次々と発生した。設備の配置が非効率的であったり、設計ミスが発覚したりと、予期しないトラブルが相次いだのだ。
ついには、建設工事が中断される事態にまで発展した。町の人々は失望し、計画そのものが中止されるのではないかという不安が広がった。
田中は、ふと「船頭多くして船山に登る」という古いことわざを思い出した。あまりにも多くの意見を取り入れようとした結果、方向性が失われ、船が進むべき道を見失ってしまったのだと悟った。
「もっと早く、皆をまとめるべきだった…」
田中は後悔の念に駆られたが、今さらどうすることもできなかった。結局、商業施設の建設計画は白紙に戻され、町にはただ未完成の建物が残された。
町民たちは落胆し、町の未来を担うプロジェクトが頓挫したことに対して責任の所在を問い始めた。田中は、自分の優柔不断さが招いた結果だと痛感し、今後は一つの方向性をしっかりと決め、意見を集約することの重要性を胸に刻んだ。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
コメント
コメントを投稿