積善の家に余慶あり

 積善の家に余慶あり


昔、ある村に良吉という名の男がいた。彼は誠実で、どんな小さなことでも人助けを怠らなかった。農作業を手伝う、道に迷った人を案内する、村の困りごとに率先して立ち向かう。良吉の家系も代々、村人たちを助けてきたことで知られていた。


ある日、良吉は一人の行商人を自宅に招いた。その男は病に倒れており、村の外れで動けなくなっていたのだ。良吉は男を手厚く看病し、元気になるまで世話をした。行商人は感謝しつつも、「恩に報いる機会があれば、必ずお返しします」と言い残して村を去った。


それから何年か経ち、村に大きな不幸が訪れた。凶作により、村中が飢えに苦しんでいた。良吉の家も例外ではなく、食料は底をつき、家族の顔にも疲れがにじんでいた。


その時、行商人が再び現れた。驚いた良吉の前に、男は袋から米と野菜を取り出し、満面の笑みでこう言った。


「あなたの恩に報いる日が来ました。私の商売はあの日から繁盛し、今日はその感謝を込めて食料を持ってきました。」


良吉は深く感謝し、その米で家族は飢えを凌ぐことができた。それだけでなく、行商人の話を聞いた他の村人たちも助けの手を差し伸べ、村は次第に活気を取り戻していった。


村の長老は言った。「積善の家に余慶あり。良吉、お前の善行が家族を救い、村を救ったのだ。」


良吉は父から教わった言葉の意味をようやく理解した。善い行いは決して無駄にならない。それは時間をかけて、必ず何らかの形で自分や子孫に返ってくるものだと。



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#田記正規 #読み方

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