三十六計逃げるに如かず(さんじゅうろっけいにげるにしかず)
「最も賢い策」
翔太は子供のころから喧嘩が強く、地元の誰もが彼を恐れていた。どんなに相手が強そうでも、翔太は絶対に負けなかったし、その自信もあった。友人たちも、彼を頼りにしていた。どんなトラブルがあっても、翔太がいればなんとかなる。そんな風に、彼は仲間のリーダー的存在として振る舞っていた。
しかし、ある日、翔太の元に知らせが届いた。隣町の不良グループが彼に挑戦状を送ってきたのだ。そのグループのリーダー、誠一は噂によると非常に危険で、彼の手にかかった者は皆大怪我をしているという。
「俺が相手に負けるわけがない」と、翔太は強がりながらも、内心では少し不安を感じていた。それでも、自分のプライドと、周りの期待があったため、挑戦を受けるしかないと思い込んでいた。
対決の日、町の広場には大勢の見物人が集まり、緊張感が漂っていた。誠一が現れた瞬間、その場の空気は一変した。彼の体格は翔太よりも大きく、鋭い眼光が人を圧倒するようだった。翔太は誠一の姿を見て、初めて「これは勝てないかもしれない」と感じた。
戦いが始まる直前、翔太は冷静に自分の状況を考えた。自分が無理に戦って、重傷を負ったり、仲間に迷惑をかけるのは避けたい。それならば、この場を離れることが一番の策ではないか。
「逃げるのか?」仲間たちは驚いていたが、翔太は毅然とした表情で言った。
「三十六計、逃げるに如かずって言うだろ。今は戦う時じゃないんだ。勝てない戦いに挑むより、次の機会を待つ方が賢いさ。」
翔太はその場から背を向け、静かに去っていった。最初は周囲の人々がざわめいたが、次第にその行動の意味を理解し始めた。誠一もまた、翔太の判断力に感心し、追いかけることなく彼を見送った。
その後、翔太は自分の力だけに頼るのではなく、戦いのタイミングや状況判断が重要であることを学んだ。そして、無理に戦わず撤退することも、強さの一部だと理解するようになった。次の挑戦では、翔太は以前よりも賢明なリーダーとして、仲間たちと共に成功を収めることができた。
ことわざから小説を執筆 #田記正規 #読み方
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