転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)

 小さな田舎町に住む絵里子は、慎重で知られる性格だった。何事も計画を立て、予防策を講じるのが彼女の信条で、家族や友人からは「転ばぬ先の杖」として親しまれていた。


ある日、絵里子は友人たちと山にハイキングに行くことになった。山道は険しく、滑りやすい場所も多いことで知られていたため、絵里子は事前にしっかり準備をした。登山靴に滑り止め、救急キット、さらには悪天候用のレインコートまで、かばんの中は予防策でぎっしりだった。


一方、友人たちは「天気は晴れだし、大丈夫だよ」と楽観的で、軽装で山に向かった。最初は順調だったが、頂上近くで急に霧が立ちこめ、雨が降り始めた。足元がぬかるんで転倒する人が続出したが、準備万端の絵里子はしっかりと杖をつき、足元を確かめながら進むことで無事に乗り越えることができた。


山を降りた友人たちはすっかり疲れ果て、泥だらけだった。そんな友人を見て、絵里子は少し微笑んで言った。「やっぱり“転ばぬ先の杖”って大事だね」。友人たちは少し照れ笑いを浮かべ、「今度は私たちもちゃんと準備するよ」と誓ったのだった。


その日以来、友人たちはどんな小さなことでも、「絵里子みたいに転ばぬ先の杖を持とう」と話し合うようになった。



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