恋は思案の外(こいはしあんのほか)

 恋は思案の外

真奈美(まなみ)は会社では「計算高い女」として知られていた。取引の数字に強く、先読みの力に優れている彼女は、仕事では冷静沈着で一歩も引かない女性だった。だが、そんな彼女が恋に落ちるなど、誰も予想していなかった。


新しく営業部に配属された中村拓也(たくや)は、いつもマイペースでどこか抜けている男だった。数字に疎く、会議で話す内容も曖昧で、何かと注意を受けるタイプだった。しかし、その素朴な笑顔や、人を惹きつける無邪気な性格が、不思議と真奈美の心を掴んでいた。


「こんな男に心を奪われるなんて、どうかしてる」と真奈美は自分を責めた。だが、彼が失敗を笑い飛ばし、周囲を元気づける姿を見るたびに、心の中にあった冷たい計算は溶けていった。


ある日のランチタイム、真奈美は意を決して拓也に声をかけた。

「中村さん、今日のランチ、一緒に行かない?」

驚いた表情を見せた彼は、少しの間を置いてから、満面の笑みで頷いた。


ランチを終えた後、真奈美は自分の胸の内を吐露した。

「あなたといると、計画や計算なんてどうでもよくなるの。こんな気持ち、初めてなの。」

拓也は笑顔で答えた。「それでいいんじゃないですか?恋って、そんなもんだと思います。」


真奈美はその言葉を聞いて思った。恋は思案の外。理屈で測れるものじゃない。計算高い彼女が、初めて理屈を手放した瞬間だった。




ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方 #会社 

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